質問
★お寺では蓮(はす)の花のデザインされたものをたくさん見かけます。なぜでしょう。
回答
若林隆壽
日本では「香典袋(こうでんぶくろ)」をはじめとして、仏事に関(かか)わるものに、その意匠(いしょう)が多用され、蓮の花は何だか「縁起(えんぎ)の悪い花」「悲しいときに用いられる花」のように捉(とら)えられがちですが、もともとはそうではありませんでした。
蓮の花は古代のギリシャやエジプト、またインドでも「聖(せい)なる花」として珍重(ちんちょう)されてきましたし、中国では今でも「富貴花(ふうきか)」といって、牡丹(ぼたん)と共に「繁栄(はんえい)を象徴(しょうちょう)する花」として愛(め)でられています。
蓮の実はとても小さく硬いのに、咲く花は大きく美しく、多くの実をつける。蓮根(れんこん)は汚(きたな)い泥(どろ)の中にありながら、そこからすーっと茎(くき)を伸ばして清らかに咲く姿は、気品に満ちている。昔の人びとは、そこに汚(よご)れた現実世界を脱した、仏さまの悟(さと)りの世界を感じたに違いありません。
仏像が「蓮台(れんだい)」に乗っているのを見てもわかるように、蓮の花は「清浄(しょうじょう)」なるものの代表であり、寺院にそのデザインが多く使われているのもそのためです。
夏の早朝、陽(ひ)が昇る時刻を知っているかのように、夜明けと共にゆっくりと花びらを開く蓮の花。その上品な香りに包まれると、自分の心が、自然に穏(おだ)やかになり落ち着いていくのを感じます。
近年、全国各地に蓮池(はすいけ)を中心とした公園などが整備されるようになってきました。機会があれば、ぜひ訪れてみたいものです。