質問
★お寺で食事のことを「お斎(とき)」と呼ぶのはなぜですか。
回答
若林隆壽
「腹の皮が突っ張ると眼の皮が弛(たる)む」の言葉通り、満腹になると誰しも眠くなるものです。最近、ダイエットや健康管理のために、一日のうちに時間を決めて食事をするという「プチ断食(だんじき)」が流行しているようですが、仏教では修行に集中できるようにと、修行者の守るべき「戒(かい)」の中に「正午から翌日の日の出までは食事をしてはならない」という規定があり、今でもこれを実践しているところもあります。
この食事が許される時間帯を「正時(しょうじ)」、してはならない時間帯を「非時(ひじ)」といい、この「正時」に頂く食事を「とき」とか「さい」と呼んで「斎」の字をあてました。食事にかかわる規定が時間帯によって決められていたので、食事そのものを「おとき」と呼ぶようになったというわけです。
「茶事(ちゃじ)」で出される軽い食事のことをいっていたものが、この頃は和食のコース料理を指す言葉になってしまった「懐石(かいせき)」も、元を正せば、修行僧がこの「非時」に「温石(おんじゃく)」といって焼いた石を布でくるんだものを懐(ふところ)に抱いて、空腹と寒さをしのいだというのがそのいわれです。
これから迎える食欲の秋。天地の恵みの何を頂いても美味(おい)しい時期。ついつい食欲に任せて暴飲暴食に走りがちですが、「お斎」というのはまさに「医食同源(いしょくどうげん)」、時にしたがった規則正しい生活が第一と心得て、過ごしたいものです。