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続・質問帳

若林隆壽

質問

母が無くなってから毎週お墓参りを続けていますが、未練(みれん)が残ってかえって母のためにならない、と言う人があります。ほんとうですか。

回答

若林隆壽

 

  川柳(せんりゅう)や都々逸(どどいつ)の元にもなったといわれるものに、江戸の元禄(げんろく)年間に流行した点付俳諧(てんつけはいかい)(句を募集(ぼしゅう)し、優(ずぐ)れた句には点と賞金を与える)があります。なかでも有名なのは、小津安二郎(おづやすじろう)監督の名作『東京物語』で、大坂志郎(おおさかしろう)さん扮(ふん)する息子が、亡き母の法要(ほうよう)の際につぶやく「孝行(こうこう)したいときに親はなし、されど墓に布団は着せられず」という連句(れんく)でしょう。詩句に多少の違いはありますが、かつては講談(こうだん)や落語の中にもしばしば登場しました。
最近は少年犯罪の凶悪化(きょうあくか)と低年齢化、親による子供の虐待(ぎゃくたい)などがしきりに報道され、「親孝行」という言葉自体が「死語」になりつつありますが、どんなに生前に孝養(こうよう)を積んだ方でも、逆にそういう人ならなおさら、実際に親を亡くしてみると、この句のような思いをするものです。
また「木静かならんと欲(ほっ)すれども風やまず、子養(やしな)わんと欲すれども親待たず」ともいい、健在(けんざい)のうちに、子を想(おも)う親の気持ちに感謝し、十分といえるほどの「親孝行」をすることは難(むずか)しいとされてきました。
「未練が残ってかえってためにならない」とは妙なことで、扶育(ふいく)の恩(おん)に報(むく)いようという毎週のお墓参り、きっとお母さまはお喜びでしょう。どうぞご心配なくお続け下さい。

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