質問
★お坊さんが持っている半開(はんびら)きの扇(おうぎ)はなんですか。
回答
若林隆壽
今でこそクーラーやエアコン、扇風機にその地位を奪(うば)われて、あまり出番がありませんが、団扇(うちわ)・扇といえば、高温多湿な日本の夏には欠かせないものでした。
団扇は、聖徳太子(しょうとくたいし)がこれを考案したとか、鑑真和上(がんじんわじょう)が奈良時代に唐から将来(しょうらい)したなど諸説ありますが、実際はもっと古い時代から使われており、初めは宮中(きゅうちゅう)や寺などで虫を払うのに用いて「打羽(うちは)」の字を当てていたようです。そのため、今でも団扇を虫除けや厄除(やくよ)けのお守りにする風習が残っている地方もあります。
扇は平安時代から、貴族などが顔を隠すための「檜扇(ひおうぎ)」「杉扇(すぎおうぎ)」などの「板扇(いたおうぎ)が作られ始め、なんとこれらは「冬扇(ふゆおうぎ)」と呼ばれています。
お尋ねの扇は「中啓(ちゅうけい)」で、現在普通に使われている「末広(すえひろ)」などの扇とは違い、完全に閉じることができず「中(なか)ば啓(ひら)いている」のでこう呼ばれます。これもやはり扇(あお)ぐための扇ではなく、儀式(ぎしき)などに用い、閉じたまま使うのが原則です。宗派によっては、祝儀(しゅうぎ)には朱色(しゅいろ)の骨で金銀や絵の描かれた扇面(せんんめん)のもの、不祝儀(ぶしゅうぎ)には黒色の骨で灰色の扇面のもの、と使い分けることもあります。
また、仏像を拝むときや人と相対(あいたい)するときに間を置いて、へりくだって、自分が一段下がった位置にいることを示すための「結界(けっかい)」の代わりに用いたりもします。
ちなみに「末広」「中啓」は」どちらも「夏扇(なつおうぎ)に分類されています。